依存症(特に行動嗜癖)の一般理解の問題点

令和2年度 横浜市精神保健福祉審議会 第2回 依存症対策検討部会 素案資料より
用語の定義
依存症:アルコールや薬物などの物質の使用や、ギャンブル等やゲームなどの行為を繰り返すことによって脳の状態が変化(1)し、日常生活や健康に問題が生じているにもかかわらず、「やめたいと思わない」「やめたくても、やめられない」「コントロールできない」状態(2)となること。本人や家族等の周囲の人の性格や努力不足によるものではなく(3)、様々な生きづらさや孤独を抱えるなど、原因や背景は多様であり、適切な医療や支援につながることで回復できる(4)。
*()内数字は篠原による

 よく流通している定義ですが、いくつか留意点があります。
(1)「脳の状態の変化」について
 まず指摘しておきたいのは、脳の状態の変化が物質使用や行為の繰り返しの、結果なのか原因なのか、はたまたその相互作用なのかです。物質使用障害や行動嗜癖では、そうでない人と比べて脳が○○となっている、という報告が多数あります。しかし、それらはワンショット研究と言って、ある時点で障害の人とそうでない人を比較しただけの相関研究です。
 相関研究は「~~と○○は関係する」とはいえても、「~~のために○○となった」といった因果関係(原因と結果の関係)は言えません。依存関係の脳研究論文でも、当たり前に研究の限界として著者自身が指摘していますが(指摘しないと論文が通らない)、そこはすっ飛ばされて世の中に紹介されます。著者もあえてそうしたりします。
 しかし、因果関係を知るには、たとえば繰り返し測定を行い、~~な人で○○が増えたなどの結果が必要です。学校の保健室の前に飲酒で縮んだ脳の画像がはられたのを見た人もいると思いますが、その常識すら、今疑われています。以下をご覧ください。

アルコールの飲みすぎで脳が萎縮するのではなく、脳が小さいとアルコールの消費量が多くなる???
 アルコール使用障害(いわゆるアルコール依存)での脳の萎縮が古くから報告されてきました。しかし、これらの報告はいわゆるワンショット研究(横断的研究)で相関関係は示せても、因果関係は示せません。つまり、アルコール消費が脳萎縮を生むのか、もともとの脳の小ささがアルコール消費量を増すのか、はたまたその相互作用なのか、これまでの研究スタイルでは明らかにできないのです。
 そこで、ワシントン大のライアン・ボグダンらは、2423人の脳画像等を解析しました。この中には、双子の飲酒癖と脳画像を比較したものや、子どもの頃から長期にわたって脳を観察した研究、死後の脳組織を使った遺伝子発現の分析が含まれていました。
 その結果、行動のコントロールにかかわる背外側前頭前野とリスクや痛みコスト計算にかかわる島皮質の灰白質の量が少ないとアルコール消費が増すという関係が明らかになったそうです。子どもの頃から飲酒を行う大人になるまでの脳スキャン画像を縦断的に調べると、これらの部位に灰白質の減少があることは、将来的なアルコール消費、若い頃から飲酒を始めることなどの予測因子になっていたそう。
 また、お酒をあまり飲まない双子に比べて、お酒をよく飲む双子は灰白質の量がより少ないが、双子のうち1人が大酒飲みだったとしても、2人ともの灰白質の量が少なかったそう。このことから、灰白質の少なさはアルコール消費の結果である反面、アルコール消費に走りやすい脆弱性の表現でもあるとしています。
 さらに、脳での遺伝子発現を調査したところ、アルコール消費の遺伝リスクは、特に背外側前頭前野の遺伝子発現と関連していたそう。前頭前野などの灰白質の少なさとアルコール消費量が増すことの両方に関連する遺伝的要素があり、これがアルコール使用をしたがる傾向を予測する生物学的マーカーになりうるとのこと。
 この研究はアルコール使用が脳萎縮を生むことを否定するわけではないですが、遺伝的リスク要因が確かにあり、それがアルコール使用量を増させ、脳萎縮に拍車をかけうるといった図式が妥当なことを示しています。
David AA. Baranger et al, Convergent evidence for predispositional effects of brain gray matter volume on alcohol consumption, Biological psychiatry, DOI: https://doi.org/10.1016/j.biopsych.2019.08.029
 実はこうした指摘はかなりあり、「薬物で脳が~となるのか、脳が~だと物質使用障害に脆弱性を持つのか。後者ルートを示したパネル調査」https://higeoyaji.at.webry.info/201703/article_2.htmlでは、Monetary Incentive Delay Taskで、小さい報酬と大きい報酬での腹側線条体、中脳、背外側前頭前野の活動差が小さいと(この差にモチベーションを感じないと)物質問題を抱えやすいことが示され、誠実さ、時間割引以上にこの脳活動が影響することが回帰モデルで明らかになっています。
Nat Commun. 2017 Feb 21;8:14140. doi: 10.1038/ncomms14140. Blunted ventral striatal responses to anticipated rewards foreshadow problematic drug use in novelty-seeking adolescents. Büchel C, et al.
 そもそもギャンブリング障害では約50%が遺伝要因で説明されるので、快感、報酬による条件付けだけで依存症を説明するのは無理があります。
Slutske WS, Zhu G et al: Genetic and environmental influences on disordered gambling in men and women. Arch Gen Psychiatry, 67(6):624-630, 2010

 最近ではギャンブル等依存症(ギャンブリング障害)やゲーム依存(ゲーミング障害)での脳の変化が、指導参考資料などでも紹介されています。たしかにゲーム依存の人とそうでない人の脳を比較して、ゲーム関連刺激での報酬系(主にドーパミン神経系)の有意に強い活性化や、他の報酬ゲームへの報酬系の有意に弱い反応が報告されています。
 しかしこの反応は1990年代からシュルツらによって指摘されてきているように報酬系では当たり前の反応です。予告信号を与えてから報酬を与えることを繰り返すと、最初は報酬時に活動していた報酬系が、予告信号時に前倒しされ、逆に報酬時の活動は消失していきます。報酬⇒報酬予測⇒報酬予測誤差の脳内計算による報酬時反応の低下、は、ギャンブリングやゲーミング特有の特殊な「脳の状態変化」ではないのです。勉強であっても、仕事であっても、好きになる過程で起きますし、この報酬予測誤差計算(いわゆるギャップ)の減少が「飽きる」過程で起きる反応です。ですから、この報酬系のパターンをもってギャンブル等依存症やゲーム依存の説明をするのは無理があります。よく、依存の教科書?などで、確率条件での報酬提示によるドーパミン神経系の反応が依存の正体であるかのような説明がありますが、あれは研究室で遊ぶ時間がのびることを示しているだけの研究なので、ぱちんこでいえば稼働の増加は説明しても、障害レベルの依存の説明にはなりません。後で示すようにほとんどのユーザー(約95%)は依存疑いがないですし、依存疑いがあっても臨床レベルの障害様を示すのはその5%程度と推測されます。たぶん、この規模感はゲームでも同様か、もっと問題が小さいのではないかと思います。
 さて、脳では、前頭前野の萎縮や活動低下が指摘されたりもしますが、前頭前野問題がギャンブリングやゲーミングの結果かどうかわかりません。むしろ原因という指摘に向かっているように思います。上記のようにアルコール使用障害ですらそうですし、PTSD、虐待でもそういう指摘が常識化していますし。
 実際、ゲーム依存では久里浜も自閉スペクトラムで報酬回路や前頭前野の接続様式が変わることを報告しています。自閉的特徴が増悪(ぞうあく)を生みうるとみたほうがいい可能性の強い相関研究です。
Kuriki S, Higuchi S, Nakayama H, Mihara S, Okazaki Y, Ono Y, Kobayashi H. Neurobiological influence of comorbid conditions in young patients diagnosed with gaming disorder: A whole-brain functional connectivity study based on a data driven method. PLoS One. 2020 May 29;15(5):e0233780. doi: 10.1371/journal.pone.0233780. eCollection 2020.
 だいたい、脳がどうこう言ったって、診断基準には採用されていないし、その見込みもほぼありません。脳や遺伝子(リン酸化とか出てくる)関連の変化現象はギャンブリング障害特異的な現象としてとらえるのではなく、一般的な現象としてとらえ利用した方が治療的、支援的です。「依存」はなくすというより、やめ続けるというより、他への依存、好ましい行動を「増やす」。他のまあいい感じのハマりの促進に利用した方がよろしいかと思います。行動療法、認知行動療法はそのように使うべきだと思います。

(2)「「やめたいと思わない」「やめたくても、やめられない」「コントロールできない」状態」について
 筆者はいわゆる「ぱちんこ依存(遊技障害)」の実態調査を行っているので、以下は(3)(4)含め、ぱちんこ依存、ギャンブリング障害に絞ってお話しします。
「「やめたいと思わない」「やめたくても、やめられない」「コントロールできない」状態」を依存症の定義とするのに異論はありません。ICD-11によればギャンブリング障害は以下のように定義されます。

Description
Gambling disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gambling behaviour, which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by:

1)impaired control over gambling (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context);
2)increasing priority given to gambling to the extent that gambling takes precedence over other life interests and daily activities; and
3)continuation or escalation of gambling despite the occurrence of negative consequences. The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning.

The pattern of gambling behaviour may be continuous or episodic and recurrent. The gambling behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.

Inclusions
Compulsive gambling
Exclusions
Bipolar type I disorder (6A60)
Bipolar type II disorder (6A61)
Hazardous gambling or betting (QE21)

 しかし、この定義から受ける逸脱感や障害的印象、および臨床事例や自助団体の紹介事例と、全国サンプリング調査での「依存疑い」(約40万人)の実態はだいぶ違います。
 臨床事例や自助団体のぱちんこ依存の体験談を見ると、借金まみれ、借金の繰り返し、自己破産が定番です。しかし、我々の5000人規模の全国サンプリング調査では依存疑いの半数は借金ゼロ、債務整理体験もありません。またその半数の「借金あり」も、借金の中央値は10万円未満です。一方、久里浜医療センターのギャンブル外来では400万円が借金の中央値ですが、全国調査では400万以上はゼロでした。
 この全国調査の1名は2万人弱に相当するので、世に流通するギャンブル等依存症事例はこの規模と推定されます。しかし、40万人が事例レベル、それどころか2009,2013年調査での500万人規模が事例レベルのように誤認し対策が議論されるのは大きな間違いだと言わざるを得ません。
 なお、500万人規模のデータは同じ久里浜がその後2017年に行った調査結果と乖離しており、閣僚会議等では70万人が採用されています。しかも、このときのSOGSという調査尺度は対策会議等ではゴールドスタンダードとして紹介されていますが、過剰カウント問題などが以前から指摘され、2010年以降使用している国はあまりまりません。
 そして、われわれは、全国調査の「依存疑い」レベルなら、債務整理体験がない1000万人ユーザーなら「自由にしてよい時間だけ遊技しよう」の順守でリスクは大きく軽減しうる可能性を指摘しています。債務整理体験がある36万人なら「上限を決め、達したらやめよう」の順守、自己申告・家族申告プログラムの利用でリスク軽減できるし、「自由にしてよい時間だけ遊技しよう」「上限を決め、達したらやめよう」といった健全遊技が順守できないユーザーには遊技していただかない方が業界としても望ましいと思われる。なお、この層の一部(1割以下)がGAなど自助団体の言う強迫的ギャンブリング(上記ICD-11参照)であったり、臨床事例であったりすると思われます。
篠原菊紀、櫻井哲朗、西村直之ら:パチンコ・パチスロ全国調査データを用いた遊技場でのギャンブリング障害予防対策の検討、アディクションと家族 35巻:135-143. 2020
 
(3)「性格」について
(4)「回復できる」について

 回復支援を行っている人の中には、ギャンブル依存に性格は関係ないという人がいます。冒頭の定義でも似た表現があります。しかし、欧米の研究では、ギャンブラーの中でも衝動性の高い人、協調性・誠実性の低い人でギャンブリング障害が多いことは繰り返し報告されています。われわれの調査でもこの傾向が支持され、またパネル調査では、これらの性格は因果的に遊技障害の疑いを生じやすいこともわかってきました。そしてこの傾向はストレス下で加速します。調査に基づかない専門家や関係者の言説や断言は、エビデンスのレベルでは最低で、聞く必要がありません。
 では性格も関連するとして、性格を変えればいいのでしょうか。懺悔し、衝動性を抑え、協調性を高め、誠実に日々を生きていく、という12ステップの物語は魅力的です(特に家族にとっては)。しかし、行動遺伝学では、性格の30-50%は遺伝要因で説明され、さらに、50-70%の環境要因は人を似せる方向ではなく似せない方向に働くことが知られています。つまりある環境(たとえば12ステップ的環境)を用意すれば、みなが衝動性を抑え、誠実性を高めていく、同じ方向で改善していくなどということは、少なくとも統計的にはありえません。
 そもそもギャンブリング障害の50%は遺伝要因で説明され、残り50%の環境要因も性格同様、人を似せない方向に働きます。普遍的に効く方法やプログラムなどないと思った方がいいのです。GAの強迫的ギャンブリング(ICD-11参照)に当てはまらない遊技障害疑いが圧倒的に多いし、強迫的ギャンブリング用としてもGA的グループミーティングに普遍性がないことは、自己治癒仮説などでずっと指摘されてきましたし、8%程度の改善しかないといった古典的な報告もあります。
 結局、昔は12ステップを信奉していたが、その後の活動で12ステップが合わず、むしろ発達障害対応を重視したほうがいいと考え、方針を転換したワンデーポートの言う個別アセスメントが必須だし、正しく普遍的な環境調整など標榜しても意味がなく、その人やその家族に合う落としどころの模索がだいじということです。その際、健常⇒障害⇒治療・支援⇒健常、といったモデルで考えられないケースが多々あり(臨床レベルではそうです)、治療というより福祉的対応が必須です。
 「あなたにとって○○はなにをもたらしてくれたのか」が出発点で、動機を変えるのではなく利用する。医療というより福祉。健常状態への回復が難しい一群の存在を忘れてはならないと思います。「適切な医療や支援につながることで回復できる」が与える弊害がそこにあります。

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