マイナスを強く刻む脳から、パチンコユーザーを考える。マックスを求めてしまう確率加重関数

◆マイナスを強く刻む脳から、ユーザーを考える
 わたしたちの脳には、恐ろしい出来事、嫌な出来事があったら、それをしっかりと刻み付ける恐怖学習系(負の強化学習ともいいます)があります。恐怖学習は扁桃体中心核を中核とする一発学習。他の動物に襲われるなど恐怖の出来事は一発で覚えないと、生き残る確率が低くってしまうからです。マイナスの出来事は、それだけ強く脳に刻まれるので、その回復には時間やプロセスやテクニックが必要なのです。一方、いいことを褒め、いいことを褒めを繰り返していくと、望ましい行動が増えていくのが強化学習系。ドーパミンの影響を強く受ける線条体を中核とした学習系です。
 そして、この脳構造は、パチンコユーザーの機種選択の傾向にも影響します。経済学と脳科学を融合した神経経済学でしばしば取り上げられる、カーネマンらのプロスペクト理論では、図のような価値関数を提案しています。
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 この図は三つの特徴を持っています。パチンコユーザーを考えるうえでいいモデルになるので紹介します。
 特徴のひとつは参照点依存性です。Xが客観的な価値で、vが主観的な価値なのですが、Xが絶対的な価値を表しているのではなく、実際の報酬と期待との差を表現するという特徴です。たとえば、同じ一万円勝ちでも、5万負けそうな時の逆転勝ちと、予想通りの一万勝ちでは喜びが違います。予測との差が+6万と0だからです。まして二万勝ちのつもりが一万勝ちではがっかりしてしまいます。予測との差が-1万だからです。予測という参照点に依存して客観的な価値が決まるので、これを参照点依存性といいます。そして、この性質は、快感にかかわるとされるドーパミン神経や線条体が、実際には予測との差で反応することに対応しています1)。パチンコで大当たりするとドーパミンの分泌が増しますから、この性質はユーザーを考えるうえで忘れてはいけない特徴です。
 次の特徴は感応度逓減性です。図でいえば、右に行っても左に行っても頭打ち。人によりけりですが、普通の人なら、孫さんの100億も業界の40億もよくわからない。「たくさん」というだけになってしまう。客観的な価値が大きくなるほど、主観的な価値の上昇が小さくなっていく、あるいは客観的な損失が大きくなるほど、主観的な損失の増大感が小さくなっていくという性質です。ですから同じ40億を出すのなら、小分けにした方が主観的な価値は高まります。10万勝たせるなら、3万を三回の方が主観的な価値は高まるのです。
 もうひとつが、脳がマイナスを強く刻むゆえの特徴。損失回避性です。図でいえば、Xが正の時より、負の時の方が主観的な価値(Y軸)の絶対値が大きくなります。たとえば利得と損失が半々のギャンブル課題で、様々な額の組み合わせでの脳活動調査から、利得額に応じて線条体と前頭前野腹内側部の活動が高まり、同じ利得額と損失額では損失での活動的低下の方が大きいことが示されています2)。「100万円をただでもらえる」のと、「サイコロを振って奇数が出たら200万円、偶数だったら0円」でどちらを選ぶかと問われれば、多くの人は100万円の確保に走ります。その一方で、いま200万の負債を負っているとすれば、「負債を100万にしてくれる」のと、「サイコロを振って奇数が出たら負債はチャラ、そのかわり偶数が出たら負債はそのまま200万」だと、勝負に出る人が増えます。期待値はまったく同じなのに、勝ちは確保に負けは忌避に走るのです。だからFXのような投資では、つい小勝ちの利益確保に走りがちですし、逆に負けているときには大勝負に行きがち。パチンコユーザーも、ふところが傷めば傷むほど、マックス勝負に走りやすくなってしまうのです。

◆マックスを求めてしまう確率加重関数
 カーネマンらはさらに、Pが実際の確率、W(p)が主観確率となる確率加重関数を提案しています(図)。
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 図のように、わたしたちには高い確率は低く見積もり、低い確率を高く見積もる傾向があります。だから当たりそうにない宝くじでドキドキでき、確実なことでもハラハラできるのです。また、この傾向は脳のメモ帳、ワーキングメモリの容量ともかかわるドーパミンのD1受容体の数が少ない人ほど顕著との報告があり3)、脳のメモ容量が小さい人ほどドキドキできる、ハマりやすいとも言えます。  
 興味深いのは35%あたりに屈曲点があることで、リーチの信頼度が50%と言われても、30%と言われても主観的には差として感じにくい。こういうと、魚群予告のような50%程度の信頼度も、30%も同じだと考えがちですが、主観的には同じと感じられるのに実際に打ち込んで差を実感してしまうと、30%はやたら当たらないと感じ、50%はやたらよく当たると感じてしまうのです。ここにも、海シリーズがシェアを占めてきた理由があります。
 また、実際確率が70%を超えたあたりから主観確率が急上昇しますから、マックスが継続率を競ったのも当然です。しかもこの確率領域ではw(p)が常にpを上回るので、実感としてよく続くと思えてしまう。また損失領域では主観価値が急速に下がるので、小さい負けも大きい負けも負けは負けと大勝負に出やすくなって、結局マックス。そしてユーザーは傷んでいきます。それでも台の開発期間が短ければ、流行時に大量に流行タイプが投入され、ブームが早く終わって影響は小さくて済むのですが、いかんせん開発期間は長い。結果、ブームが遅れてやってきてだらだら続く。すると本来ならブームに取り残される層まで付き合わされる。たとえば設置比率規制とか脳の性質に合わせた規制は必須。ニーズ(脳の性質)に合わせきってはいけないのです。だから風営法の対象なんでしょうし。

1)Doya, K. : Metalearning and Neuromodulation. Neural Networks, 15(4). (2002)
2)Tom, S.M., et al.,: The neural basis of loss aversion in decision-making under risk. Science 315, 515-518 (2007)
3)Takahashi, H., et al.: Dopamine D₁ receptors and nonlinear probability weighting in risky choice. J Neurosci. 2010 Dec 8;30(49):16567-72.

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