山梨県ギャンブル等依存症対策推進計画(素案)に対する県民意見の募集について

山梨県ギャンブル等依存症対策推進計画(素案)に対する県民意見の募集について
https://www.pref.yamanashi.jp/gyoukaku/public/shogai-fks/r2_gambleizontaisaku.html

 わたしは県民ではないので、ざっと見ての意見です。今後、各地で同様の計画が策定され、意見公募が行われると思うので、参考までにブログにアップしました。
 全体的にはよくまとまっており、ギャンブル障害の原因なのか、結果なのか、その相互作用なのか、明確でないことが論文には記載されている、脳についての研究の引用は、以前のグレースロードさんなどと異なり控えめで好感が持てます。また自助団体の言う強迫ギャンブリングとの混同を、たとえば、文部科学省が平成31年3月に出した「『ギャンブル等依存症』を予防するために 生徒の心と体を守るための指導参考資料」よりは避けようとしているように感じられ、好感が持てました。
 以下は、それでも「正しい知識の普及」を依存界隈での風説ではなく、エビデンスに基づき、蔑視、差別問題を避けながら行っていくなら注意が必要だなあ、と思った点を書きました。

① 全体として「ギャンブル等依存症」「依存症」という語の使用について。
法律で使われている用語なので、致し方ないと思いますが、「ギャンブル依存症」「ギャンブル障害」「依存症」などの使用について、学術雑誌International gambling studies などでは極力控え、people first 言語を使用することを編集者などから求められます。これは障害やメンタルヘルス問題がその人の属性のすべてであるような偏見や誤解を生みやすく、その修正がだいじだと考えられているからです。正しい知識の普及、特に児童生徒への教育の中でスティグマ、差別、蔑視、偏見の再生産をしてしまうのは避けるべきなのでご配慮いただければと思います。

以下はBroylesの引用です(西村直之先生訳)。2020年にはブラッチンスキーがAvoiding use of stigmatising descriptors in gambling studieという宣言を出しています。ご参考まで。

ピープルファースト言語とは、文字通り、その人の行動や状態を説明する言葉よりも、その人を表す言葉を優先したものです(篠原注:英語表現で人を示すpeopleなどが前に来て、その後にwithなどをつけ属性を説明する)。障害やメンタルヘルスの分野で最近よく言われるもので、個人の状態、病気、または行動が「その人が誰であるかの一側面にすぎず、特徴を定義するものではない」という事実を強調するのに役立ちます 。嗜癖(addiction)の領域では、「alcoholics:アルコール中毒者(使用障害)」、「addicts:嗜癖者」、さらにはより一般的な「使用者(篠原注:これはかなりましな表現)」などの用語は、病気によって人々をグループ化し、特徴づけ、レッテルを貼る用語であり、そうすることで、経験における個人差を言語学的に消去してしまっています(篠原注:さらに状態の流動性を消去してしまう。健全なときは案外多く、その拡大がだいじな治療的戦略)。その代わりに、「person with a cocaine use disorder:コカイン使用障害がある人」、「adolescent with an addiction:嗜癖を有する若者」、「individuals engaged in risky use of substances:危険な薬物使用をしている人」など(の表現)は、何よりもまず、影響を受けた個人の個人としてのアイデンティティを強化します。
Broyles, L. M., Binswanger, I. A., Jenkins, J. A., Finnell, D. S., Faseru, B., Cavaiola, A., ... & Gordon, A. J. (2014). Confronting inadvertent stigma and pejorative language in addiction scholarship: a recognition and response.

② p17、課題①:正しい知識の普及・「ギャンブル等のコントロールができなくなる状態にある人は、文献等においても若年層が多いとされる」について。
われわれの研究では、少なくともパチンコ・パチスロに関連した「ギャンブル障害のうたがい」に関しては、うたがいのある人と、うたがいのないプレーヤーとの間に、年代による有意差は確認できませんでした。また遊技開始年齢での有意差も認められませんでした(篠原菊紀, 櫻井哲朗, 西村直之,河本泰信, 秋山久美子, 堀内由樹子, 坂元章, 祥雲暁代, 佐藤拓, 石田仁, 牧野暢男 (2020). 「パチンコ・パチスロ全国調査データを用いた遊技場でのギャンブル障害予防対策の検討」『アディクションと家族』35(2), pp. 135-143.)。
正しい知識の普及はエビデンスに基づくものであるべきです。わたしは若年層のギャンブリングにはより慎重であるべきとの見解は支持しますが、日本でのエビデンスは少なく、むしろないことを踏まえた知識普及でなければ、職種や娯楽に関する過剰なモラルパニック(ゲーム障害では最近この用語が使われます)の温床になりえると思います。教育的な普及の際にはぜひご注意ください。

③ p20、3.共通認識(1)ギャンブル等依存症は、誰でもなりえる身近な問題、について。
「誰でもなりえる」は極めて低い確率であっても「なりえる」わけで、論理的に間違ってはいませんが、リスクに濃淡があることはかなり昔からわかっています。それを教えるのが正しい知識の普及だと思います。
たとえば、パーソナリティ5因子理論(神経症傾向/外向性/開放性/調和性/誠実性)に基づくギャンブリング障害研究では「高い神経症傾向」および「低い誠実性および調和性」が障害のうたがいとかかわることが繰り返し指摘されています。われわれのパチンコ・パチスロユーザーの縦断調査でも、これらが単に相関関係ではなく、因果的な原因となることが示されました(投稿中)。また、うつ、不安障害、発達障害等の併存もよく知られており、ギャンブル障害うたがいの遺伝率は双子研究で50%程度ということもずいぶん前からわかっています(Slutske W. S., Zhu G et al (2010). Genetic and environmental influences on disordered gambling in men and women. Archives of General Psychiatry, 67(6), pp.624-630)。
「誰でもなりえる」と一般的にギャンブリングの危険を注意喚起をするよりは、~~な人は特に注意を、○○な人は比較的安心など伝えるのが、エビデンスに基づく正しい知識の普及だと思います。ちなみに、「穏やか」「落着き」「新しもの好き」「正直」「社交性」はギャンブリング障害に陥りにくい傾向でした(投稿中、3月発表予定のパチンコ・パチスロ遊技障害研究最終報告書)。

④ p17、2課題②相談支援体制の強化、「ギャンブル等依存症が疑われる者の数と相談者数に大きな乖離があり~」について。
 相談体制の強化が必要なことに異論はありませんが、自記式スクリーニングテストでの「ギャンブル等依存症うたがい」と相談が必須と思われる事例とは大きな「乖離」があります。その点を数的に把握したうえで「乖離」や「強化」を議論してください。
以下、長いですが、3月発表予定のパチンコ・パチスロ遊技障害研究最終報告書の拙著部分から引用させてください。

1. 「遊技障害のおそれがある人」と臨床事例等は乖離しており、それぞれの量的把握を混同してはならないが、全国調査レベルでの「遊技障害のおそれがある人」への、またはそれより健全なレベルの遊技者への予防対策は必要

以下の引用は文部科学省が平成31年3月に出した「『ギャンブル等依存症』を予防するために 生徒の心と体を守るための指導参考資料」に記載されている久里浜医療センターの統計と、ギャンブル等依存症になった大学生の体験談である。
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(文部科学省, 2019: 8より再引用)
※図表注記に2013年3月~6月とあるが、実際は2013年6月~2015年12月である。

【ギャンブル依存体験談】
ギャンブル等依存症になった大学生の体験談
大学生になり友達に誘われ、何の気なしに始めたのがパチンコです。最初は、付き合い程度、気晴らし程度の金額で、生活に影響はありませんでした。ところが次第に、自分で最初に決めた金額や時間内で止められなくなり、あっという間にコントロールを失ってしまいました。今思えば、始めてからわずか半年程度だったと思います。小遣いやバイト代は、全てパチンコに消え、やがてそれだけでは足らず、友達や当時付き合っていた彼女にも借金をして迷惑をかけてしまいました。親にも何度も借金の肩代わりをしてもらい、「これが最後だ」としかられ、「二度とパチンコはやらない」と誓約書を書きました。そのたびに、自分自身も「こんなことじゃいけない。しっかりしなくては」 と思うのですが、気が付くと「迷惑をかけた人に借金を返さなくては。そのために一発当てなくては」 と考えてしまい、またパチンコに行くという悪循環から抜け出せなくなっていました。
あっという間に自分の人生を一変させてしまうギャンブル。手を出すことは簡単ですが、一度依存症になると回復までの道は決してたやすくはなく、沢山のものを失います。そのことをみんなに 知ってもらいたいと思っています。(K)
(出典:「知ろう!ギャンブル依存症」 発行:ギャンブル依存症を考える会)
(文部科学省, 2019: 8より再引用)

「やめたくてもやめられない」「借金を繰り返す」「その累積は数百万にも」。一般の方々や遊技産業関係者が抱く、「パチンコ・パチスロによるギャンブル等依存症の人々」のイメージは、マスコミ等での紹介がそうであったように、この統計や事例に近いものと思われる。もしこのイメージに近しい人々が、久里浜医療センター調査でいえば0.8%(文部科学省, 2019)、われわれの全国調査では40万人(Shoun, A., Sakamoto, A., Horiuchi, Y., Akiyama, K., Ishida, H., Shinohara, K., Komoto Y., Sato, T., Nishimura, N., and Makino, N. (in press). Pachinko/Pachislot Playing Participation in Japan: Results from a National Survey, Journal of Gambling Issues, 46.)いるのだとすれば由々しき事態で、ギャンブル等依存症対策推進基本計画の順守はもちろん、さらに強力な遊技障害対策が必須であろう。
しかし、実態はどうやら違う。久里浜医療センターを受診した人の借金総額の中央値は400万円、初診時借金中央値は62.5万円だが、われわれの全国調査では、「遊技障害のおそれのある人」で借金が300万を超えた人は0人(約1.9万人以下と推定)、借金中央値は10万円以下であり、引用の久里浜医療センターでのデータと大きく乖離していた(前出、篠原ら2020)。市中データと来院データが異なることは医療情報では常識であり、ここで追認されたわけだ。
また、「遊技障害のおそれのある人」の実像を、遊技障害尺度短縮版(秋山久美子, 坂元章, 祥雲暁代, 河本泰信, 佐藤拓, 西村直之, 篠原菊紀, 石田仁, 牧野暢男 (2016). 「パチンコ・パチスロ遊技障害尺度の短縮版の開発」『精神医学』58(12), pp. 993-999.)への回答でみれば、以下の太字の選択で「遊技障害のおそれ」が認められることになる。

① 過去1年間、私はパチンコ・パチスロのことがいつも気になって仕方がなかった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
② 過去1年間、パチンコ・パチスロは、ストレスから逃れるために私にとってなくてはならないものだった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
③ 過去1年間、私はもっとお金を得たいと思うあまりに、パチンコ・パチスロに使う金額が増えてきた。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
④ 過去1年間、パチンコ・パチスロを打つ回数を減らしたら、私は気持ちが落ち着かなくなった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
⑤ 過去1年間、私自身のパチンコ・パチスロによる負けや借金を隠すために、うそをついたことがあった。
まったくない(1点)、ほとんどない(2点)、時々ある(3点)、よくある(4点)
⑥ 過去1年間、私はパチンコ・パチスロを打つことによって、経済的な困難におちいり、お金を出してくれるように頼ったことがあった。
まったくない(1点)、ほとんどない(2点)、時々ある(3点)、よくある(4点)

「パチンコ・パチスロによる負けや借金を隠すためにうそをついたことがほとんどなく」「お金を出してくれるよう頼んだことがほとんどない」という、医療現場の統計や体験談と比べれば、それほど不健全とは思えないレベルでも「遊技障害のおそれのある人」と認められてしまう。だから、医療現場の統計や流布される体験談が全国調査での「遊技障害のおそれ」と同一であるかのような議論は慎まなければいけない。この点を踏まえた報道が必要だし、誤認を誘導するような言説には業界として修正を求めていく姿勢が必要だ。
しかし、その一方で、遊技障害問題が世の中のイメージほど大規模なものではないからといって、遊技産業関係者はあまり気にしなくていい、軽く見ていい、と理解するとすれば、それは誤りだ。この全国調査レベルでの「遊技障害のおそれ」が、現状では、世界でのギャンブリング障害についての議論の水準だからだ。短縮版で示した程度の「おそれ」もしくはもっと「健全」なレベルから、ギャンブリング障害対策、遊技障害予防対策が必要だから論じている、というのが、世界水準での理解だと認識すべきである。(引用終わり)

⑤ p9、③「依存症者の状況」について。ギャンブル等依存うたがいの流動性について。
SOGSなどスクリーニングテストの自記式による推定では、ギャンブル等依存症うたがい、のレベルは指摘したようなため、その流動性(自然回復、特に相談等しなくても1年間以上、うたがいレベルにない)は極めて高い点は重要です。
 AMEDのデータでは過去一年でのギャンブル等依存症うたがいは0.8%、生涯では3.6%で、単純計算では2.8%(78%相当)が回復しています。山梨県推定では15700人が回復していることになります。
我々の全国調査では、ギャンブルによる問題を経験した133人で専門機関への相談は4人(3%)で、だからこそ相談体制の充実が必要である反面、自然回復が圧倒的でそのあと押しこそギャンブル等依存症対策の主眼であるべきだろうと思います。

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