パチンコ・パチスロ遊技障害 研究成果 最終報告書 第1章より

この章では、ギャンブリング障害の概念について、世界においてこれまで作られてきた診断基準や調査票等の意義を中心に分析し、その変遷について述べる。(佐藤拓先生)

📙 1. DSM-IIIより前
📨 1) 自己責任論から個別治療へ
ギャンブリングの問題への関心が、支援や治療の専門家やそれ以外の人たちに、ほとんど持たれない状態は長い期間続いていたことが推測される。これは一般的に、ギャンブリングの問題を起こす本人に、みずからの苦しみに対する責任があると考えられていたためである。そのような中で、問題を抱える人に対する個別への取り組みとして、20世紀前半より精神分析療法、力動学的精神療法、嫌悪療法などの試みがなされている。しかしながら、これらの治療だけでは安定した成果は得られなかった。

📨 2) 問題を抱える当事者らによる取り組み
嗜癖(アディクション)問題を抱える人たちへの支援として、世界的に最も広く行われている取り組みは、相互援助(自助)グループである。ギャンブリングの問題では、ギャンブラーズ・アノニマスが知られている。ギャンブラーズ・アノニマスは、1957年のカリフォルニア州ロサンジェルスで、はじめてのミーティングが行われた。問題を抱える当事者(Jim Willisら)によるこれらの取り組みは、メディア等でも大きく取りあげられ、社会的関心を持たれた。その後、およそ20年の期間を経て、ギャンブリング問題に関する世界的に活発な医学的、公的議論がなされていくことになる。

📨 3) ICD-9
ギャンブリングの問題が、病的ギャンブリング(pathological gambling)の名称で、はじめて公式の診断用語として導入されたのは、1975年に世界保健機構(WHO)が出版した疾病及び関連保険問題の国際疾病分類第9版(ICD-9)である。ここでは名称が記されたのみであり、診断基準などは示されていない。

📙 2. DSM-III以降
📨 1) DSM-III
一般に検査法がなく、原因のはっきりしない疾患や障害について、信頼性の高い診断を行うためには、明確な基準を設けた操作的診断基準が必要となる。この診断基準を用いることにより、より均一の対象群を抽出することが出来るため、病態の解明、治療成績・転機の比較、疫学調査などが可能となる。病的ギャンブリングの操作的診断基準は、DSM-III(精神障害の診断・統計マニュアル第3版)によって、1980年にアメリカ精神医学会により示された。7項目(犯罪行為、借金の不払い、家族関係の崩壊、闇金融の利用、お金の損失の説明困難、仕事の喪失、他者からの援助の必要性)の診断基準のうち3つ以上の項目を満たす場合が病的ギャンブリングであるとされた。この診断基準の特徴は、主に金銭問題や触法問題に焦点をあてていることであった。また、DSM-IIIでは、自他に害を及ぼす行為をする衝動に抗うことができない自己制御の障害群をまとめた衝動制御障害という分類が示され、病的ギャンブリングはここに含まれることとなった。

📨 2) DSM-III-R
ところが、1987年に出されたDSM-III-Rでは、病的ギャンブリングは衝動制御障害に分類されていることこそ変わっていないが、診断項目がひとつも引き継がれていないという大幅な変更がなされた。この変更に大きな影響を与えたのは、EdwardsらによってなされたWHO専門部会報告(Edwards, 1977)である。Edwardsらは、慢性的な摂取が続いている物質と生体間の相互作用によって生じる精神、行動、身体の3つにおよぶ特徴的症状により構成される「依存症候群」という概念を示したのである。依存症候群は、物質の摂取が原因として示されたものであるが、DSM-III-Rの病的ギャンブリングの診断基準には、依存症候群をベースにした考え方が色濃く盛り込まれることとなった。9項目(没頭、賭けの額・頻度を増やす、離脱様症状、負け追い、止めようとして止められない、負担を紛らわす、他の生活活動の犠牲、問題が生じていても継続)の診断基準のうち4つ以上の項目を満たす場合が病的ギャンブリングであるとされた。物質へののめり込みの概念を、ギャンブリングという行動へののめり込みの診断に応用するという大転換がなされたわけであるが、この時点において、この大転換の根拠となるエビデンスがあったとは考え難い。かなり思い切った決断であったと言えよう。

📨 3) SOGS
1987年には、サウス・オークス・ギャンブリング・スクリーン(SOGS)が、LesieurとBlumeにより作られた。SOGSでは、20項目の質問の中で5点以上を示すと、病的ギャンブリングうたがいとされた。このSOGSの研究開発では、妥当性や分類制度の評価のためDSM-III-Rとの比較がなされていた。SOGSには、実施が容易なこと、世界中のさまざまな調査で用いられている実績があることなどの利点がある。その一方で、借金の出所を示す尺度に大きな比重が置かれていること、時間枠が生涯期間となっていたため有障害率には寛解期にあるギャンブラーも含まれてしまう等の問題が指摘(Haynes, et. al., 1995)されていた。このため、LesieurとBlumeはSOGSを修正して過去1年という短期の時間枠を設けることを提案し、Sutinchfieldら(2002)は過去1年の時間枠を設けたSOGSに十分な信頼性と妥当性があることを確認した。また、LesieurとBlume(1993)は、ギャンブリングの形態についての質問項目は、SOGSが使われるであろうそれぞれの地域に適合するように修正すべきであることに合意している。

📨 4) ICD-10
1992年にはICD-10が出され、この中でも病的ギャンブリングは衝動制御障害の分類とされた。ICD-10の診断ガイドラインの特徴は、両価性の概念が示されたことにある。不利な社会的結果を招くにもかかわらずギャンブリングが持続、増強するという矛盾する現象が病理の根幹とされており、この両価性の理解は、問題を抱える人たちへの初期介入において重要であると考えられる。診断ガイドラインの中で、ひどい損失やほかの不利な結果によって抑制されるギャンブリングは、除外項目として示されている。2006年には病的ギャンブリングは自然回復(治療や回復資源につながらないにもかかわらず問題がなくなる)という現象が起きやすいことが報告されている(Slutske, 2006)が、ICD-10が刊行された時点においては、ギャンブリングの問題は慢性進行性に増悪することが想定されていたと推測される。また、compulsive gambling(強迫ギャンブリング)という呼称は不適切であるとの注意書きがあるが、BartzとHollanderら(2006)が、強迫性障害を不安障害から独立させ、強迫スペクトラム障害というカテゴリーに移すべきだと主張し、この中への病的ギャンブリングを含めることも検討がなされており、診断分類の迷走が生じている。2018年6月に公表されたICD-11では、持続性の経過だけでなく挿話性という間欠的に問題が生じる経過も含まれることが示されている。また、強迫ギャンブリングという用語は診断概念に含まれることとなった。後に述べるDSM-5と同様に、pathological(病的)という呼称は用いられなくなった。

📨 5) DSM-IV、DSM-IV-TR
1994年にはDSM-IV、2000年にはほぼ同じ内容のDSM-IV-TRが出されている。病的ギャンブリングは変わらず衝動制御障害の分類とされた。DSM-IVの診断項目では、DSM-IIIから3項目(犯罪行為、仕事の喪失、他者からの援助の必要性)とDSM-III-Rから6項目(没頭、賭けの額・頻度を増やす、離脱様症状、負け追い、止めようとして止められない、負担を紛らわす)が引き継がれ、「ギャンブリングへののめり込みの深さを隠すために、嘘をつくことがありましたか」という新しい1項目が導入された。この結果、8つは物質依存症候群をベースとした項目、2つが金銭・触法問題をベースとした項目という構成となった。10項目の診断基準のうち5つ以上の項目を満たす場合が病的ギャンブリングであるとされた。

📨 6) CPGI
SOGSやDSM-IVなど、世界的に広く用いられるギャンブリングの測定方法が開発される中で、特定の地域で用いられている指標の開発もなされている。カナダでは、FerrisとWynneによりカナディアン・プロブレム・ギャンブリング・インデックス(CPGI)が、2001年に開発された。CPGIは、カナダの一般集団、常連のギャンブラー、治療中のギャンブラーへの調査をもとに作成されている。CPGIでは、(決してない=0、ときどき=1、大体の場合=2、ほとんど常に=3)という4つの回答オプションが採用されており、9項目の合計点数(0~27点)で、3~7点は中等度のリスクのギャンブリング、8点以上が問題あるギャンブリングとされる。図表1-1に、カナダの各州で実施されたCPGIの調査結果を示す。ギャンブリングの文化背景は、各国、各地域により異なっており、世界的に共通して用いられる診断基準による調査だけでなく、それぞれの地域におけるさまざまな特性を考慮した評価尺度による調査にも意義があると考えられる。

図表1-1 カナダの各州で実施されたCPGIの調査結果(割愛、本報告書をご覧ください)


📨 7) DSM-5
2013年にはDSM-5が出され、病的ギャンブリングからギャンブリング障害(日本精神神経学会訳ではギャンブル障害)に呼称が変更された。また、ギャンブリング障害は、衝動制御障害の分類ではなく、嗜癖(アディクション)および関連障害の分類に含まれることとなった。これは、物質の依存症候群とギャンブリング障害の共通するさまざまな生物学的知見が示されてきた結果である。嗜癖(アディクション)という用語は、かつて侮蔑的、差別的な意味合いを含んでいるとされ、WHOで棄却されていた経緯がある。しかしながら、行動へののめり込みと物質の依存症候群との関連性が数多く示される中で、両方の概念を包括する分類が必要とされることとなり嗜癖(アディクション)という用語は復活することとなった。診断項目の中では、ギャンブリングの機会に対する資金を得るために、違法な行動をとるという1つが削除された。このことにより9項目の診断基準のうち4つ以上の項目を満たす場合がギャンブリング障害であるとされた。また、持続性と挿話性、寛解持続と寛解早期という記載により、自然回復の現象を評価できるようになったことや軽度・中等度・重度の重症度分類が設けられたことにより、現時点において深刻な問題を抱えていることが考えられる群だけでなく、今後問題を深刻化させる可能性のある群など幅広い特定がなされるようになった。図表1-2に、DSM-5の診断基準を示す。

図表1-2 DSM-5 ギャンブル障害(当研究会訳)
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以下にあげる9つのことについて、過去一年の間に、あなたはその感情や行動を経験したことがありましたか。それぞれについて、「はい」か「いいえ」でお答え下さい。

1. 望み通りの興奮を得たいと思って、もっと金額を増やしてギャンブルをしたい欲求がありましたか。
2. ギャンブルをするのを減らしたり中止したりすると、落ち着かなくなったり、いらだったりしましたか。
3. ギャンブルをするのを制限したり、減らしたり、またはやめようとしたりして、失敗を繰り返すことがありましたか。
4. しばしばギャンブルをすることに心を奪われていることがありましたか(例えば、過去のギャンブルの経験を思い起こしたり、次にどうしたら勝てるかを考えて計画を立てたり、ギャンブルをするための金銭を得る方法を絶えず考えたりした)。
5. 悩ましい(例えば、救われない、罪悪感のある、不安な、ゆううつな)気分のときに、ギャンブルをすることがしばしばありましたか。
6. ギャンブルでお金をすった後、別の日にそれを取り返すためにギャンブルをやりに戻ることがしばしばありましたか。
7. ギャンブルへののめり込みの深さを隠すために、嘘をつくことがありましたか。
8. ギャンブルのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらしたり、失ったりしたことがありましたか。
9. ギャンブルによって引き起こされる絶望的な経済状況から逃れるために、お金を出してくれるよう他人に頼みましたか。
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(カットオフ再調査の面接で用いたDSM-5パチンコ・パチスロ遊技障害版について、「パチンコ・パチスロ」の文言を「ギャンブル」に戻したものをここに掲載した。)

📙 3. まとめ
これまでの経過を考察すると、さまざまな概念の変遷がいくつかの軸として見えてくる。①ギャンブルの問題を抱えることが不道徳であり、自己責任として解決すべき→病的概念に基づく支援・治療の対象としてとらえるべき、②個別の治療→統一された支援形態による取り組み、③可視化された社会的トラブル(金銭・触法問題等)→不可視化な背景要因(渇望、嗜癖(アディクション)等)、④個別評価→診断基準による評価、⑤各地域により異なる概念→世界的に統一された概念、⑥一部地域のデータを元に作成された診断基準→世界中で使用できる診断基準、などである。このように、さまざまなギャンブリングや文化的背景においても用いることが出来るようになった概念の肥大化の傾向は、ギャンブリング以外の行動の問題が、嗜癖(アディクション)のカテゴリーに含まれてくる今後の潮流にも沿っていると考えられる。
では、ギャンブリングの問題の背景にあると想定された嗜癖(アディクション)概念は、世界的に用いることが出来る診断基準の改良により、より明確になってきているのであろうか。答えは否である。ギャンブリングの問題を生じる可能性が高いと評価されたギャンブラーの多くが、必ずしも進行性の経過をたどる訳ではないこと、専門的な支援や治療につながらずに回復する人が一定数いることが示されている。このことは、ギャンブリングの問題を抱える人たちに共通する因子の分析だけでは、ギャンブリングの問題を軽減する要因や悪化させる要因の評価は不十分であることを示している。ギャンブリングの行動に影響するものとして、数多くの因子が関連していることが推測される。このため、各地域におけるギャンブリングの特性やギャンブリングの問題を抱える方々の特性などを、治療や診断の観点だけでなく社会的、公衆衛生的観点も含めて分析していくことが重要である。
Broylesら(2014)やBlaszczynskiら(2020)は、「problem gambler(問題のあるギャンブラー)」「disordered gambler(障害のあるギャンブラー)」「disordered gambling(ギャンブリング障害)」「pathological gambler(病的ギャンブラー)」「pathological gambling(病的ギャンブリング)」「addicted gambler(ギャンブル中毒者)」「compulsive gambler(強迫ギャンブラー)」「self-excluded gambler(自己排除となったギャンブラー)」などの用語は、侮蔑的で汚名を着せるニュアンスがあり、そう言われた人の自尊心、自己効力感や自己同一性を低下させることになり、苦しんでいる人が自分に問題があることを認めたり、それを人に言ったり、治療を求めたりする心構えに影響を与え、あるいは回復が可能であるという自信を失わせるかもしれないと述べている。
この提案は、研究者に向けたものではあるが、遊技障害の予防・介入・治療に関わる人たちにとってもしっかり受け止める必要のある提案である。「個」に対する支援・治療から「嗜癖(アディクション)」という見えそうで見えない診断概念の確立に向かった流れを、再度「個」を見つめる方向に変える時期にきているのかもしれない。

以下は篠原の私見。
ギャンブリング問題の尺度の草草は、診断というより、幅広くリスクのありかを探るのに役立つ。そのため、治療的というより、予防的注意喚起に役立つので、DSM-5系の諸調査での結果は、国や地域、もしくは集団に対するエビデンスのある予防的対策の立案に役立つだろう。一方、問題を伴っている個々人の場合には、ギャンブリング障害自体が何かの現れであったり、潜在的な何かを引き出すきっかけであったりする。個々人の持つリソースもみな異なる。医療的な対応での「治る」概念では難治と言われ、福祉的な「落としどころ」を見出す対応が必要になるケースも多い。だから、ギャンブリング障害概念はいったん棚上げして、個体や周囲のニーズは一応おさえつつも、個体や周囲のリソースをいかに生かすか、役立たせるかを工夫したほうがいい。その落としどころは、往々にして世間の常識、健常化とは異なる、と思っておいた方がいい。

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