ギャンブル障害関連記事問題

10月7日付の朝日新聞(夕刊)1面記事
「パチスロの金が欲しくて 祖父を/24歳被告 重度のギャンブル依存症」について

 これまでパチンコ・パチスロと関連した事件等を報じる場合、パチンコ・パチスロまたはギャンブル依存症のみが原因であるかのような扱いがほとんどでした。しかし同記事では、弁護人や裁判の経緯、松下先生のコメントを掲載することで、依存症と併存、または依存症の増悪因子たりえるコミュニケーション症などの発達障害や衝動性の問題を指摘しており、これまでの報道とは一線を画した素晴らしい記事だと敬服いたしました。余談ですが、諸外国の研究では衝動性、非誠実性、非協調性がギャンブル障害のリスク要因であることが指摘されており(MacLaren et al., 2001;Bagby et al., 2007; Kaare et al., 2009)、われわれの縦断的調査でぱちんこでも因果的リスク要因であることが示されつつあります(未発表)。ちなみにこちらはゲーム障害での報告で、インターネットゲーム障害が精神症状を引き起こすのではなく、共通の因子(例えば遺伝要因)がインターネットゲーム障害、精神症状のいずれにも因果的にかかわるとしたものです(https://higeoyaji.at.webry.info/202010/article_2.html)。

 一方で、「パチスロの金が欲しくて 祖父を/21歳被告 重度のギャンブル依存症」という見出しや、警察統計の引用は、パチンコ・パチスロまたはパチンコ依存が犯罪と結びつきやすいといった誤解を生みかねないのではないかと懸念いたしました。28万件中976件は0.3~0.4%にあたり、パチンコ・パチスロ遊技者約900万人から考えると、ぱちんこ関連の犯罪は極めて少なく、また、ご引用の日本医療研究開発機構報告によるギャンブル等依存症が疑われる人の割合0.8%を用いても、ギャンブル等依存症が犯罪に結びつきやすいという議論は成り立ちにくいと思われます。
 欧米ではギャンブル障害に反社会的パーソナリティ障害や反抗挑戦性障害の併存が指摘され、これが反社会的事件とかかわる可能性が考えられますが、日本の疫学調査ではギャンブル障害(病的ギャンブル群)のなかで反社会性パーソナリティ障害と診断されたのは116名中3名(2.6%)と非常に少ないことが報告されています(田中克俊 2009. いわゆるギャンブル依存症の実態と地域ケアの促進. 厚生労働科学研究費補助金 平成19~21年度総合分担研究報告書)。この点からもギャンブル依存が犯罪に結びつきやすいと読み取れるような表現はスティグマの発生を促しかねず、ご注意いただければと考えました。
 これは発達障害、コミュニケーション症、衝動性等でも同様で、これらが犯罪につながりやすいかどうかには慎重な研究が必要で、スティグマのもとにならないような表現を求めます。記事にコメントが掲載されている「ギャンブル依存症問題を考える会」田中紀子氏の「ギャンブル依存症」(角川新書2015)後半部にはそのような問題が多分に含まれているように思えます。2015年の本ですし、薬物使用障害に関するスティグマ問題を盛んに指摘されている氏なので、現在のお考えは異なるであろうと推察いたしますが。

 記事中でギャンブル障害の生涯での疑い320万人を引用しております。しかし、諸外国もまた日本も過去一年での疑いで議論するのが一般的となっており、日本医療研究開発機構報告もギャンブル等依存症対策会議では0.8%を用いています。特にこの調査で使われたSOGSは10年ほど前まではよく用いられていましたが、現在はあまり用いられておらず、補正が必要な指標であるという指摘もあり(秋山ら、2018、日本におけるギャンブリング障害の障害疑い率とその比較 : 方法論による重みづけを用いた検討、アディクションと家族 = Japanese journal of addiction & family : 日本嗜癖行動学会誌 34(1) 75 - 82 2018年12月)、慎重な引用が必要かと思います。
 記事では参考として、強迫的ギャンブラーの指標を紹介しています。これも注意が必要です。強迫的ギャンブリングはギャンブル障害に内包されますが、その一部に過ぎず(下記)、320万人あるいは70万人(0.8%)が強迫的ギャンブラーと誤解を生みかねない併記にはご注意いただければと思います。たとえば久里浜医療センターを2013年3月~6月に受診した人の借金の中央値は400万円ですが、社安研の住基データに基づくランダムサンプリングによる5000人の全国調査では、パチンコ依存の疑いのある人で借金が300万を超えた人は0人(1.9万人以下)、ぱちんこ等ギャンブリングで借金を抱えた人の借金中央値は10万円以下でした(篠原ら 2020、パチンコ・パチスロ全国調査データを用いた遊技場でのギャンブリング障害予防対策の検討、アディクションと家族 35(2) 135 - 143 2020年6月)。ギャンブル障害の疑いと、記事のような、あるいは医療機関や自助団体での事例とは、数的な乖離があるので、調査データの紹介ではミスリードが起きないよう、ご配慮いただければと思います。またGA的な方法の有効性は限定的である点にもご注意ください(https://higeoyaji.at.webry.info/202005/article_12.html)。
 ちなみに、全国調査でのギャンブル等依存疑いのレベルを下記の項目(遊技障害尺度短縮版:秋山ら、2016)で見ると、14,5点以上、「どちらかといえばあてはまらない(ほとんどない)」3個、「どちらかといえばあてはまる(時々ある)」3個で15点、DSM‐5基準(4点以上)に相当してしまいます。そのレベルの議論と記事のようなレベルや臨床例を混同してはいけないと思います。
① 過去1年間、私はパチンコ・パチスロのことがいつも気になって仕方がなかった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
② 過去1年間、パチンコ・パチスロは、ストレスから逃れるために私にとってなくてはならないものだった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
③ 過去1年間、私はもっとお金を得たいと思うあまりに、パチンコ・パチスロに使う金額が増えてきた。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
④ 過去1年間、パチンコ・パチスロを打つ回数を減らしたら、私は気持ちが落ち着かなくなった。
あてはまらない(1点)、どちらかといえばあてはまらない(2点)、どちらかといえばあてはまる(3点)、あてはまる(4点)
⑤ 過去1年間、私自身のパチンコ・パチスロによる負けや借金を隠すために、うそをついたことがあった。
まったくない(1点)、ほとんどない(2点)、時々ある(3点)、よくある(4点)
⑥ 過去1年間、私はパチンコ・パチスロを打つことによって、経済的な困難におちいり、お金を出してくれるように頼ったことがあった。
まったくない(1点)、ほとんどない(2点)、時々ある(3点)、よくある(4点)

 なお、強迫的ギャンブラーの強迫性はギャンブル障害では一般的ではありません。自分ではパチンコがコントロールできないという自覚をGAなどでは求めますが、Inability to Stop gambling(ギャンブリング行動を自分で止めることが出来ないという認識)が強いほど再発しやすいことが報告されており(Mallorquí-Bagué N, et al, Impulsivity and cognitive distortions in different clinical phenotypes of gambling disorder: Profiles and longitudinal prediction of treatment outcomes. European Psychiatry, 61, 9-16, 2019.)、強迫性のないギャンブル障害の方が一般的です。ここにも全国調査での疑いと臨床例の乖離があります。そのため予防対策では、GA等の主張とは異なり、ギャンブリング行動のコントロールに対する自己効力感を増すことが可能ですし、それが重要だと考えます。遊技業界は、そのため、「ぱちんこは適度に楽しむ遊びです」といった文言を店内ポスター、パンフレット、パチンコ・パチスロの液晶、ちらし、に記し、遊技者に注意喚起しているところです。

 現在、遊技業界はギャンブル等依存症対策推進基本計画に基づき、「新たに広告宣伝に関する指針を作成、公表。注意喚起標語の大きさや時間を確保」「通年、普及啓発活動を実施するとともに、啓発週間に新大学生・新社会人を対象とした啓発を実施 」「自己申告プログラムの周知徹底・本人同意のない家族申告による入店制限の導入」「自己申告・家族申告プログラムに関し、顔認証システムの活用に係るモデル事業等の取組を検討」「18歳未満の可能性がある者に対する身分証明書による年齢確認を原則化」「施設内・営業所内のATM等の撤去等」「出玉規制を強化した遊技機の普及、出玉情報等を容易に確認できる遊技機の開発・導入」「自助グループをはじめとする民間団体等に対する経済的支援」「依存問題対策要綱の整備、対策の実施状況を毎年度公表 」「第三者機関による立入検査の実施」「「安心パチンコ・パチスロアドバイザー」による対策の強化」「相談データの分析によるギャンブル等依存症問題の実態把握」を実施または着手しています。
 そして、ぱちんこ依存対策をより実効性のあるものとすべく、横断的な全国調査のみならず、横断調査では推定できない因果関係を探るため、ADHD傾向、不安傾向、性格、認知の歪み、健全遊技行動、広告接触、遊技台の射幸性等と、遊技障害疑い(ぱちんこでのギャンブル障害疑い)について、個人を繰り返し測定する縦断調査を各種実行中で、その成果を生かした科学的、実証的対策を標榜しています。
 最後にギャンブル障害の回復支援の日本でのさきがけワンデーポートの中村氏の意見を添えておきます。
http://onedaypt.jugem.jp/?eid=3103&fbclid=IwAR3oA5vNWPVOqEkpb-MlLGzH9P8GoZJ1BeqEIm_gCY-wgS_f5InLWxlOW9E


Gambling disorder

Description
Gambling disorder is characterized by a pattern of persistent or recurrent gambling behaviour, which may be online (i.e., over the internet) or offline, manifested by:

impaired control over gambling (e.g., onset, frequency, intensity, duration, termination, context);
increasing priority given to gambling to the extent that gambling takes precedence over other life interests and daily activities; and
continuation or escalation of gambling despite the occurrence of negative consequences. The behaviour pattern is of sufficient severity to result in significant impairment in personal, family, social, educational, occupational or other important areas of functioning.

The pattern of gambling behaviour may be continuous or episodic and recurrent. The gambling behaviour and other features are normally evident over a period of at least 12 months in order for a diagnosis to be assigned, although the required duration may be shortened if all diagnostic requirements are met and symptoms are severe.

Inclusions
Compulsive gambling
Exclusions
Bipolar type I disorder (6A60)
Bipolar type II disorder (6A61)
Hazardous gambling or betting (QE21)

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