快感を思い出しているときにケタミン注射で、飲酒量抑制。ギャンブリング、ゲーミングでも???

 世の中の人は、記憶は思い出すたびに強化されると思っている。それが復習。実際、復習によって忘れる速度が低下していき、長期記憶化しやすくなることは古くから知られてきた。しかし、記憶の固定(定着)過程はもう少し複雑で、実は、記憶は呼び起こされたとき不安定化する。それから新しい情報も取り込みつつ再統合、固定がすすむ。
 そしてこのプロセスへの介入が、トラウマなどのよろしくない記憶の消去に役立つ可能性が指摘されてきた。たとえば、安心安全な環境で嫌な記憶を思い出し慣れていく脱感作的な手法や、嫌な記憶を思い出しながら眼球運動を促すEMDRだとかがそれで、この記憶の不安定化、再固定のプロセスを狙って記憶の改変を目指しているとみなすことができる。
 ☟はそのプロセスに薬理学的な介入を試みた研究。対象となる記憶は不快系ではなく快感系。記憶の不安定化再固定のプロセスにはNMDA(N-メチルD-アスパラギン酸)やその受容体の関与が考えられるが、その拮抗薬であるケタミン(馬の麻酔薬で有名)を、危険飲酒者に酒関連記憶を呼び起こしたのち投与、その後の飲酒関連行動を観察している。
 具体的には、危険な飲酒パターンを有しているがアルコール使用障害とは診断されておらず、かつ治療を求めていない90人(男性55人と女性35人、平均年齢約28歳)を対象に、うち60人に、一連のビールの画像を見せて、アルコールに関連する記憶を想起させてから、半数にはケタミンを、半数には生理食塩水を注射。残りの30人は記憶の想起をさせずにケタミンを注射した。それから、参加者には飲酒量、飲酒の楽しさ、飲酒への欲求に変化があった場合報告させた。結果、記憶の想起があった後にケタミンを投与した場合、その後の最大9か月間に、飲酒日数が減り、アルコール摂取量も減少したとのこと。
 こういう結果を見ると、ゲーム障害とかギャンブリング障害とかにも応用が効きそうに思えてくる。期待したい。
 と同時に、飲酒や報酬行動を思い出させない、断~、という一昔前の手法は、既に存在する快想起のネットワークに関与してこなかったことに気が付く。むしろ、感情や価値観をクライエントと共に協働探索する中で、クライエント自身の矛盾を拡大し、両価性を探り、明らかにし、それを解消する方向に向かうよう導く、動機付け面接の方がまあ、役立ちそうとは思えてくる。あるいは河本先生が久里浜医療センターで行っていた6回面接法はこの仕組みのうまい利用法の一つだと思えてくる。欲望の整理、両価性のあぶり出しは、ケタミン使用みたいなものかもしれない?
Ketamine can reduce harmful drinking by pharmacologically rewriting drinking memories
Ravi K. Das, Grace Gale, Katie Walsh, Vanessa E. Hennessy, Georges Iskandar, Luke A. Mordecai, Brigitta Brandner, Merel Kindt, H. Valerie Curran & Sunjeev K. Kamboj
Nature Communications volume 10, Article number: 5187 (2019)

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