違法賭博問題、あれこれ

 スポーツ選手の違法賭博で、マスコミでは「ギャンブル依存症」という言葉が踊りました。わたしのところにも、いわゆるギャンブル依存の脳を解説してほしいといったマスコミさんからの依頼が何件かありました。
 たしかにギャンブリング障害(わたしはこの言い方をしたいと思っています。理由は後述)のリスクを調べる尺度(後述)と相関する脳の特徴はいくつか報告されています。しかしそれらは、たとえばゲーム、仕事、勉強でも夢中になったり、慣れてきたりすると共通して起こる現象で、ギャンブリング独特の話ではありません。むしろ仕事や勉強で「やる気」を出し、かつ維持していくためには、ギャンブリング条件(確率条件で報酬を与える)を仕事や勉強に以下に組み込むか、その工夫が大事、という話につながっていく事実です。ですから、「ギャンブリング脳」は特別な脳の障害といった論調は、すくなくとも現段階ではミスリードなのでお断りしているしだいです(神経回路の接続の強度を機械学習させて障害判断をし、そのパラメーターを解釈する方法には期待を寄せていますが)。
 また闇カジノ、闇スロといった刑法上の違法行為を行った原因が「いわゆるギャンブル依存」であるといった論調も見受けられます。これはおかしな話です。仮に「いわゆるギャンブル依存」によって違法行為が続いたとしても、そのことで違法性が棄却されるわけではないので、違法行為の問題はまず個人の責任としてきちんと考えるべきでしょう。そのうえで「いわゆるギャンブル依存」の問題を論ずるべきで、ごちゃごちゃにすると反社会的集団の利益につながるような違法行為が致し方ないかのような、あるいはそこの違法行為に従事していた人の発言を中心に議論が組み立てられていくといったおかしな話になってしまいます。
 さて、こういったゴチャゴチャを排除した上で、いわゆるギャンブル依存ですが、現在では「ギャンブル依存」「ギャンブル依存症」という言葉は使わない方向になりつつあります。かわって使われようとしているのが「ギャンブリング障害」という言葉です。
 たとえば「アルコール依存症」という言葉も「アルコール使用障害」という呼ぶようになってきています。これは、アルコール自体が問題なのではなく、アルコールとの付き合い方によって問題が生じる、それが生活上の障害や苦痛を生んでいる、という考え方によります。
 「ギャンブル」ということばには動詞的な意味合いもありますが、「ギャンブリング」と動名詞で表現したほうが、ギャンブルという行為、ギャンブルとの付き合い方がよくない、そのことで生活上の障害や苦痛が生じているので、そこをどう改善していくかがだいじだという考え方がわかりやすいので、たとえばDSM5(精神障害の診断統計マニュアル第五版)でもgambling disorderと表現されています。もっともその邦訳が「ギャンブル障害」なので紛らわしいのですが。DSM5の邦訳では行為障害が素行症などなにかとわかりにくいのですが。
 なんにしても、昔はギャンブリング障害は進行性で不可逆的、つまり一度なったら戻れない、また始めるとスリップし重症化するので、ギャンブリングをやめるしかない、断ギャンブリングだけが方法だと考えられてきました。しかし、ギャンブリング障害には自然回復が多数見出されています。また特に日本では、もともと金銭管理が苦手、人とのコミュニケーションが苦手、仕事がどうもうまくできない、多動など、ギャンブリング障害の前から、背景的な生活上の問題があって、それがギャンブリング障害という形であらわれている。そういうケースも多いので、ギャンブリングをやめることを主眼にするより、「生活」「仕事」「余暇」の建て直しをサポートする生活リハビリこそだいじだという主張や方法が現れてきているのです。
 たとえば、先駆的なギャンブリング障害のリハビリ施設のワンデーポートでは、10年ほど前から「ギャンブル依存は病気ではない」という言い方をして、生活や仕事の建て直しを主眼にしています(http://onedaypt.jugem.jp/?eid=1003)。ウィキペディアの「ギャンブル依存症」の項目ではワンデーポートを立ち上げた中村さんのかつての発言が多数引用され、ギャンブル依存は病気だ、医療問題だといった論調になっていますが、中村さんはリハビリ施設の運営の中で、その考えではうまくいかない事例、とくに発達障害が背景にあるような事例に多数遭遇し、大きく考えを変えています。また成瀬クリニックの佐藤先生は、WISCなどの知能テストで知能のばらつきを把握しておくことが、軽度の発達障害を背景にするようなギャンブリング障害では役立つとしています(ギャンブル障害に対する治療の工夫、メンタルクリニックでの主要な精神疾患への対応〔2〕、不安障害、ストレス関連障害、身体表現性障害、嗜癖症、パーソナリティ障害)247-254)。
久里浜医療センターでギャンブル外来を行っている河本先生は、ギャンブリングをやめることを第一義にするのではなく、ギャンブリングによって満たそうとしている欲望が何なのか、それは本当にギャンブリングによって満たされているのか、一緒に考えていく療法を行っています(「ギャンブル依存症」からの脱出―薬なしで8割治る“欲望充足メソッド”)。
 ギャンブリングの目的が「金銭欲」を満たすことだったり、「名誉欲」を満たすことだったり、娯楽だったり、暇つぶしだったり、ストレスを抱えたときの逃げ込み先立ったり、目的が多数からみあってしまうから、ギャンブリングをコントロールしながら適度に付き合うことが出来なくなるのが問題なので、「ギャンブリングは金銭欲を満たせているか」「名誉欲はどうか」「ストレス解消になっているか」などひとつひとつの欲望の満たし方としてどうかを考え、代わりが探せるかを一緒に考えることで、ギャンブリング障害の改善によい成績を残しています。
 この方法は、ギャンブリング障害の予防、ギャンブリングに近寄るな、という予防ではなく、うまく付き合っていこうという予防につながりうると思います。欲望の整理、欲望の満たし方の見直しは予防面でも大事だと思うのです。もともと健康教育学では、いわゆる薬物依存、薬物の使用障害だとか、アルコール使用障害の予防、ギャンブリング障害、いわゆる買い物依存などを、不健全なストレスの発散の仕方と考え、もっといい代替行為を探すのが大事だとしてきましたが、その考え方とも一致しています。
 とくにギャンブリング障害になりやすい人は、そのチェックが必要です。自分の欲望の何をギャンブリングによって満たそうとしているのか振り返っておくことが必要でしょう。ギャンブリング障害には遺伝要因がかかわっていて、その遺伝率は50%程度と見積もられていますから。ギャンブリング障害には家族内集積といって、同じ家族内でギャンブリング障害が重なる場合も多いですし、一卵性双生児のほうが二卵性双生児より一致率が高いのです。双子研究から計算した研究で環境と遺伝が半々影響することが見出されています。
 家系内でアルコール使用障害やギャンブリング障害の方がいる場合、また、すでに指摘したように、もともと金銭管理が苦手、人とのコミュニケーションが苦手、仕事がどうもうまくできない、多動などの場合もギャンブリング障害のリスクが高くなりますから、特に欲望の整理が大事なんじゃないかと思います。これから紹介するギャンブリング障害のチェックリストも予防に役立ててこそだと思います。DSM5からの抜粋です。

(1) 望み通りの興奮を得たいがために、もっと金額を増やしてギャンブルをしたい欲求がある。
(2) ギャンブルをするのを減らしたり、または中止したりすると落ち着かなくなる、またはいらだったりする。
(3) ギャンブルをするのを制限したり、減らしたり、またはやめようとして、失敗を繰り返してきた。
(4) しばしばギャンブルをすることに心を奪われている(例えば、過去のギャンブルの経験を思い起こしたり、次のギャンブルでどうしたら勝てるかを考えたり計画を立て、ギャンブルをするための金銭を得る方法を絶えず考える)。
(5) 悩ましい(例えば、救われない、罪悪感のある、不安な、ゆううつな)気分のときに、ギャンブルをすることがしばしばありましたか。
(6) ギャンブルでお金をすった後、別の日にそれを取り返すためにギャンブルをやりに戻ることがしばしばある。
(7) ギャンブルへののめり込みの深さを隠すために、嘘をつくことがある。
(8) ギャンブルのために、重要な人間関係、仕事、教育、または職業上の機会を危険にさらし、または失ったことがある。
(9) ギャンブルによって引き起こされる絶望的な経済状況から逃れるためなら、他人にお金を借りてもよいと考える。

・・・など、全部で9項目あり、あてはまるものが4~5項目なら軽度、6~7項目で中程度、8~9項目なら重度など、実際は臨床医による診断が必要ですが、自分のリスクの程度を知る上では役に立つ項目です。
・6の『深追い』を対してしまいがちになるかがチェックポイントのひとつ。あっさりあきらめられるようならリスクは低いですし、そういう行動をとることが予防的になるわけです。
・7の『ウソ』が次のチェックポイント。自分の行動を隠す、隠さなければいけないと思い、ごまかすことが日常ならリスクが高くなります。これはギャンブリングに限った話ではなく、日常でのさまざまなリスクにもつながる話ですから、大事な項目です。
・問題は、8,9です。『対人関係や職業上の機会』を危険にさらしたり、『借金を繰り返す』ようだと社会的健康が完全にリスクにさらされます。    

 ところで、このチェックリストは、インターネット使用障害、いわゆる買い物依存、ワーカホリックなどにも援用されることがあります。ギャンブルを、インターネット、ソシャゲ、買い物、仕事、場合によっては勉強と置き換えても、生活上の障害の度合いを推測できるわけです。脳科学的に言えば、精神刺激薬も、幻覚薬も、アルコールも、タバコも、報酬系といって主にドーパミンによって作動する神経系の問題。そしてこの神経系は、これまでこの番組でお話してきた「やる気」の中核。仕事や勉強の「やる気」も報酬系と線条体をいかに活動させるか。仕事なども家庭などを犠牲にしすぎると問題なわけです。

 精神医学でいう、ギャンブルとは、さらに大きな価値あるものを得たいという希望のもと、価値あるものを危険にさらすことなので、刑法で言う賭博よりは幅広い概念です。違法賭博は刑法の問題なので論外ですが、この定義での健全ギャンブリングがあるわけで、その指標づくりが必要だろうと思っています。先ほどのチェックリストの裏返しをさらに拡充すれば、健全性のチェックリストになるでしょう。
 カジノ合法化、IR促進というなら、ギャンブリング障害対策のなかで、ぜひとも健全なギャンブラー像を示していく必要があるでしょう。
 実はギャンブリング障害のチェックリストは、臨床的に重大な障害や苦痛のあるギャンブリング障害の人と、ギャンブリングをしない一般の人を区別するように作ったものなので、健全ギャンブラーと問題ギャンブラーの判別力が強くありません。そういう健全性を図る指標を、ギャンブリング、ソシャゲ、買い物、仕事などでも作ると、予防上の指針になると思っています。

ブログ気持玉

クリックして気持ちを伝えよう!

ログインしてクリックすれば、自分のブログへのリンクが付きます。

→ログインへ

なるほど(納得、参考になった、ヘー)
驚いた
面白い
ナイス
ガッツ(がんばれ!)
かわいい

気持玉数 : 0

この記事へのコメント

この記事へのトラックバック